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東京地方裁判所 昭和60年(行ウ)107号 判決 1990年7月12日

原告 早川恵子 外二名

被告 人事院

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告らの被告に対する「交替制勤務看護婦の休日勤務の代休制度化に関する行政措置要求」に対して被告がなした昭和六〇年四月二五日付判定を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告らは、いずれも東京大学医学部附属病院分院(以下「分院」という。)に勤務する看護婦である。

2  分院では、長年にわたり、三交替勤務の看護婦の休日(国民の祝日に関する法律(昭和二三年法律第一七八号。以下「祝日法」という。)に規定する休日及び年末年始等で被告が定める日を指す。以下「祝日等」という。)に勤務を要した場合には、いわゆる代休が与えられていたが、分院当局は昭和五五年二月一一日から代休制度を廃止し、その後は、祝日等に勤務した者には休日給が支給されるのみとなった。また、分院には、夜間勤務者用の休憩室及び食堂が設置されていなかった。

3  原告らは被告に対し、昭和五八年に、分院の三交替勤務の看護婦が祝日等に勤務を要した場合には代休を与える制度を設けることを求める勤務条件に関する行政措置の要求(以下「本件要求」という。)をしたが、被告は、昭和六〇年四月二五日付で、本件要求は認められないとの判定(以下「本件判定」という。)をなした。

4  本件判定は、その理由中で、分院における交替制勤務の看護婦の勤務実態等については、休憩室が設けられていないという問題点はあるものの、総合的にみて、原告らが主張するほど厳しいとは認められず、また、祝日等に勤務した者について休日給を支給している現行制度は妥当であり、代休制度は法令上認められていなかったものであるから、それが過去に長年行われてきたからといって、そのことを理由に代休制度を認めることはできないとの判断を示した。

5  代休制度は、他の国立大学付属病院においても認められていない。

6  本件判定に至る手続(以下「本件手続」という。)の過程で、次の事実があった。

(一) 被告は、交替制勤務者に代休制度を実施する場合には人員や予算をどれだけ増加する必要があるかについては検討を加えなかった。

(二) 原告らは弁護士を代理人として手続を進めようとしたが、被告はこれを許さなかった。

(三) 原告らは、公開の場での調査を要求したが、被告はこれを拒否した。

二  争点

本件判定の取消事由の存否が争点であるが、中心的争点は、本件判定が裁量権を逸脱ないし濫用したものか否か及び本件判定に至る手続に原告ら主張の取消事由があるか否かである。

1  本件判定が裁量権を逸脱ないし濫用したものであるか否か。

この点に関する原告らの主張は次のとおりである。

(一) 休日は、労働者が心身の疲労を回復し、労働力の再生産を行う上でも、また、人間の尊厳にふさわしい余暇の自由を享受する上でも不可欠のものである。特に、夜勤及び交替制勤務は、心身の健康面を中心として、労働者に過酷な負担を強いるものであるから、日勤者に対するよりも付与する休日を多くせねばならず、やむをえず休日に勤務させなければならない場合であっても、休日給の支給によって休日を買い上げるのではなく、代休を付与すべきであるというのが産業衛生学上の普遍的な認識となっている。

ところで、分院においては、他の病院よりも重症患者が多いため、病室の巡回、各種処置などの恒常的業務の量が他よりも多い上、容体の急変等の突発的事態の発生率も高く、看護婦の負担が重い一方、夜勤が月に一〇日から一五日にも及ぶ科が多く、また、休憩及び休息の場所や食堂が確保されていないため、夜勤中に休憩、休息及び食事をとることが不可能であり、更に、科によっては夜勤一人勤務が常態化しているところもある等、原告ら交替制看護婦の労働条件は極めて過酷であって、他の平均的な病院よりもはるかに劣悪である。

したがって、分院の交替制看護婦については、代休制度の必要制がとりわけ高く、このため、分院では、二五年以上にわたって代休制度が維持されてきたのである。代休制度が一方的に廃止された後、重い疾病に罹患した者を含め、病休者が急増し、また、病欠日数が長期化したが、このことからいっても、代休制度が分院の交替制勤務の看護婦にとって不可欠かつ最低限の労働条件であったことが明らかである。

右の事情に加え、代休制度が、祝日法の立法趣旨にも合致するものであり、分院においては業務の運営を阻害するものではなかったことをも併せると、同制度は、分院に勤務する交替制の看護婦の慣行的権利となっていたものというべきである。

したがって、本件判定は、事実を誤認し、判断を誤ったもので、これを取り消すべき裁量権の逸脱ないし濫用がある。

(二) 仮に分院における労働条件が他の国立大学付属病院と大差がないとしても、原告らが求めたのは分院にだけ代休制を設けよということではない。

前記のとおり、夜勤及び交替制勤務者には日勤者に対するよりも多くの休日を付与せねばならないというのが産業衛生学上の普遍的な認識となっていることに加え、看護婦業務は常に患者の生命を預かり、その容体の変化を絶え間無く把握して処置し、突発事態の発生にも対処しなければならないなど、極度の精神的緊張を強いられる業務であることから、交替制勤務の看護婦は二重に厳しい条件下にあること、民間の病院においては代休制度が労働条件の水準になっていること、被告が以前、別件において、夜勤日数は月八日を基準とすべき旨判定し、また、民間においても月八日が夜勤日数の水準となっているのに、国立大学付属病院の看護婦はこれを上回る夜勤をしていることの諸事情が存在する。

そこで、本件判定をなすにあたっては、国立大学付属病院の看護婦について代休制を創設すべきかどうかを、代休制度を実施する場合には人員や予算をどれだけ増加する必要があるかについての調査、民間病院の勤務実態との比較調査、夜勤の内容の実態調査、健康障害の発生の有無の調査等を行って検討すべきところ、被告はかかる調査・検討を行わなかった。

したがって、本件判定には、これを取り消すべき裁量権の逸脱ないし濫用がある。

2  原告らが弁護士を代理人として手続を進めようとしたのに対し、被告がこれを許さなかったこと及び原告らが公開の場での調査を要求したのに対し、被告がこれを拒否したことが、本件判定の取消事由となるか否か。

この点に関する原告らの主張は次のとおりである。

(一) 本件要求は、法律的論点を多々含み、また、事実関係についても多岐にわたる争点を含んでいたから、原告らとしては、弁護士を代理人に依頼し、また、調査手続を公開することにより、適切な主張・立証を行うことが不可欠であった。

したがって、被告の右各措置は、原告らの手続上の利益を違法に奪ったものであり、かかる手続に基づいてなされた本件判定は取消を免れない。

(二) 弁護士は、弁護士法三条により、行政庁に対する不服申立事件に関しても法的事務を処理する権限を付与されているところ、行政措置要求も行政庁に対する不服申立の一つの形態であるから、同条は行政措置要求についても弁護士が代理人となることを認めたものというべきであり、人事院規則一三―二が行政措置要求については弁護士が代理人となることも認めない趣旨であるならば、同規則自体が違法無効であるというべきである。

第三争点に対する判断

一  争点1(裁量権の逸脱ないし濫用の存否)について

1  まず、分院における交替制勤務の看護婦について、特に代休制を導入すべき事情があったのか否かを検討する。

(一) 分院における交替制勤務の看護婦の勤務実態についてみるに、分院における交替制勤務の看護婦は、一般に、午前八時から午後四時三〇分までの日勤、午後四時から翌日の午前〇時三〇分までの準夜勤、午前〇時から午前八時三〇分までの深夜勤、の三種の勤務を交替に行うことになっていること、分院の昭和五八年における一人あたりの月平均夜勤日数は、一番多い看護単位(科)で一一・四日、一番少ない看護単位(科)で七・九日であり、全体の平均では九・六日であったこと、昭和五九年四月当時、八ある看護単位のうち、外科や内科など四の看護単位においては準夜勤、深夜勤とも二人勤務であったが、一の看護単位においては深夜勤が一人勤務となっており、残る三の看護単位においては準夜勤、深夜勤とも一人勤務となっていたこと、分院には夜間の食堂が確保されていなかったため、夜間の食事は勤務室や処置室で取らなければならなかったほか、休憩室も設置されていなかったこと、準夜勤及び深夜勤の看護婦は定められた時間に休憩、休息を取ることができず、夜間の食事も、仕事の合間を見計らい、かつ、ナースコール等に対処しながら、取らざるをえない常態にあったこと、外科や内科においては、入院患者に重病ないし重症者が多い上、医療の高度化に伴い、一人の患者に昼夜を問わず各種の点滴をしたり、複数の機器を装着したりすることが増えるなどしたため、病室の巡回、各種処置などの恒常的業務において看護婦が行わなければならない仕事が多くなっていること、分院は大学付属病院であるため研修医が多く、これに伴い看護婦が対処しなければならない事務もあること、以上の事実が認められる(乙八、一〇、一二、証人市村安子、原告ら各本人)。

しかしながら、右勤務実態が他の国立大学付属病院におけるそれと比べて厳しいものであったことを認めるに足る証拠はない。

かえって、分院を除いた他の国立大学付属病院における昭和五八年の一人当たりの月平均夜勤日数は九・〇日であり、四三あった国立大学付属病院のうち、分院と同等又はそれ以上に月平均夜勤日数の多い病院は一二あったことが認められるのであり(乙一一)、分院における交替制勤務の看護婦の勤務実態は、他の国立大学付属病院におけるそれと比べて特に厳しいというほどのことではなかったことが窺われる。

もっとも、休憩室不存在の点については、昭和五九年一一月当時、全国の国立大学付属病院の七四パーセントに当たる三一国立大学の病院で、概ね一看護単位について一つの休憩室が設置されており、分院と同様に全看護単位について休憩室が設けられていないのは二病院にすぎず、しかも、このうちの一病院は病棟を増築中であって、増築後は休憩室が設置されることになっていたもので、この点に関する分院の勤務環境は他の大学付属病院の平均的なそれに比較して劣っていたことが認められる(甲一及び弁論の全趣旨)。

しかしながら、他の点については分院の交替制勤務の看護婦の勤務実態は他の国立大学付属病院と比較して特に厳しいとは到底認められないこと前示のとおりであるから、休憩室が存在しないことのみをもって、他の国立大学付属病院には認められていない代休制度を分院にだけ特別に認めるべきであったとは到底いえない。

(二) 国家公務員の勤務条件については、いわゆる勤務条件法定主義がとられていて、その基礎的事項は法律によって定め、細目については法律の委任に基づく人事院規則によって定められることになっているところ、原告らを含む国立大学付属病院勤務の看護婦のような非現業の一般職国家公務員については、これまで、法律ないし人事院規則において代休制度が定められたことはない。

したがって、かつて分院に存続していた代休制度は違法なものであったのであり、このような違法な制度は、それが如何に長期間存続したとしても、労働者の権利とはなりえないと解すべきであるから、かつて代休制度が存続していたことをもって、分院についてだけ、他の国立大学付属病院におけると異なって代休制度を新設すべきものということはできない。

(三) そして、他に、分院の交替制勤務の看護婦についてのみ代休制度を導入すべき特段の事情についての主張・立証はない。

2  そこで、被告が国立大学付属病院に勤務する交替制勤務の看護婦全体について代休制を採用すべきかどうかに関する調査・検討を加えないで本件判定をしたことが、その裁量を逸脱ないし濫用したものであるかどうかを検討する。

(一) 原告らは、右調査・検討を加えるべきであったとする理由の一つとして、民間の病院においては代休制度のあることが労働条件の水準になっていると主張する。

ところで、証拠(甲二の二及び三、一四の二及び三、一五の一及び二、一九ないし二一、三〇の二、三一の二、三二の二及び三、三三、原告早川本人)並びに弁論の全趣旨を総合すると、東京医労連が、昭和六〇年七月から同六一年一月にかけて、同労連に加盟している一〇五組合中、四〇組合を対象に質問調査をしたところ、三〇組合から回答が寄せられたが、このうち一六の組合が属する病院において病棟勤務の看護婦につき「振替休日制」が、また、九の組合が属する病院において「代休制」が、更に、四の組合が属する病院においてその両者が、それぞれ採用されているとの回答であったこと、右「振替休日制」ないし「代休制」が具体的にどのようなものを意味するかは回答した組合によって異なるが、右回答をした組合が属する病院のうち、少なくとも、財団法人精神医学研究所付属東京武蔵野病院、中野勤労者医療協会中野共立病院、東京医療生活協同組合中野総合病院、日本医科大学付属病院、東京医科大学病院、財団法人東京勤労者医療会代々木病院においては、祝日法に定める祝日及び年末年始の数日が休日に含まれていて、業務の必要により右休日の全部ないし一部の振替が行われることになっていること、また、右回答が寄せられた以外でも、学校法人慈恵大学経営の各病院、財団法人平和協会駒沢病院、社会福祉法人日本伝道会総合病院衣笠病院及び長生病院においては、祝日法に定める祝日及び年末年始の数日が休日に含まれていて、業務の必要により右休日の全部ないし一部の振替が行われることになっていること、の各事実が認められる。

しかしながら、右の認定事実だけでは、サンプル数が少なすぎるため、民間の病院において代休制が交替制勤務の看護婦の労働条件の水準になっていたと認めるには充分でなく、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

(二) 原告らは、右調査・検討を加えるべきであったとする理由の一つとして、国立大学付属病院の看護婦が被告の基準である月八日の夜勤日数を上回る夜勤をしていることも挙げている。

なるほど、被告は本件判定以前に夜勤日数について月約八日を目標とするのが適当である旨判定していたことが認められる(甲一)ところ、国立大学付属病院の看護婦の昭和五八年当時の平均夜勤日数が月九・〇日であることは前記認定のとおりであるから、右夜勤日数は被告が設定した目標を上回っていたことになる。

しかしながら、夜勤日数が被告の設定した目標を上回っていた場合には、夜勤日数を目標に近づけるよう更に努力すべきであって、代休制度を新設すべきことにはつながらないから、右事実が存したからといって、被告が国立大学付属病院に勤務する交替制看護婦全体について代休制を採用すべきかどうかの調査・検討をすべきであったとはいえない。

(三) 原告らは、右調査・検討を加えるべきであったとする理由の一つとして、夜勤日数についての民間の水準が月八日であったとも主張するが、この事実を認めるに足る証拠はない。

かえって、全国病院労務管理学会が調査したところによれば、看護婦の三交替制による平均夜勤回数は昭和五八年七月の時点で月九・三回、同五九年七月の時点では月八・九回であったことが認められ(甲一〇の二)、この調査結果は、国立大学付属病院における月平均夜勤日数が全国の平均水準程度であったことを窺わせるのである。

なお、同学会の調査結果によれば、昭和六〇年七月時点における看護婦の三交替制による平均夜勤回数は月八・二回であったことが認められる(甲一〇の二)が、この調査結果は本件判定がなされた後の事情についてのものであるから、この調査結果を基にして、被告が国立大学付属病院に勤務する交替制看護婦全体について代休制を採用すべきかどうかに関する調査・検討を加えなかったことを非難することはできない。

(四) 証拠(甲六、一〇の一、二二ないし二九、三五の一ないし四、証人市村安子、谷口幸子、原告ら各本人)によれば、深夜勤務や交替制勤務は、人体の本来的な生理に反するところから、日勤と比べ、同一労働でも心身に与える疲労の度合いが高い上、昼間の睡眠は夜間のそれと比較して疲労回復効果に乏しく、こうしたことから、消化器系の疾患等の健康障害を引き起こす可能性が高まること、また、深夜勤務や交替制勤務は、生活時間帯に差をもたらすことから、家庭生活や社会生活上も、悪影響をもたらす面があること、そこで、専門家の中には、夜勤及び交替制勤務者には日勤者に対するよりも多くの休日を付与すべきであるという提言をする者もいること、また、看護婦業務は、常に患者の生命を預かり、その容体の変化を絶え間無く把握して処置し、突発事態の発生にも対処しなければならないなど、精神的緊張を強いられる業務であること、の各事実が認められる。

また、前記1(一)に認定したところによれば、国立大学付属病院における交替制勤務の看護婦の勤務は、これに従事する看護婦の心身に与える負担が決して軽くないものであるということができる。

しかして、右の各点に鑑みると、国立大学付属病院における交替制勤務の看護婦については、他の国家公務員や民間の病院に勤務する看護婦の労働条件との均衡を勘案の上、勤務時間や休日の設定を含めた勤務条件の改善に向けてより一層の真剣な検討を行うことが望まれるというべきである。

しかしながら、このことは、祝日等に勤務した看護婦について代休を付与すべきであるとの結論に直結するものではないのであって、本件判定当時、国立大学付属病院における夜勤日数が民間における平均的なそれとほぼ同様であったと窺われることや、代休制度が民間の病院において一般にとられていたとは認められないことをも併せ考えると、被告が国立大学付属病院に勤務する交替制勤務の看護婦全体について代休制を採用すべきかどうかに関する調査・検討を加えないで本件判定をしたことが、その裁量権を逸脱ないし濫用したものであるとは認められないというほかない。

3  以上の次第であって、本件判定が被告の有する裁量権を逸脱ないし濫用したものであるとの原告らの主張は、これを採用することができない。

二  争点2(手続的取消事由の存否)について

1  まず、原告らが弁護士を代理人として手続を進めようとしたのに対し、被告がこれを許さなかったことが取消事由となるか否かについて検討する。

(一) 行政措置要求に関する手続の詳細は、国家公務員法一六条一項及び七四条二項の規定に基づき、人事院規則(以下「規則」という。)一三―二がこれを定めているところ、同規則には、行政措置要求手続についての代理に関する規定は存在しない。そして、行政措置要求と同様に国家公務員法第三章第六節第三款に規定されて被告が所掌する「保障」に関する制度のうち、不利益処分審査制度及び災害補償審査制度については代理人に関する規定が置かれている(規則一三―一、一三―三)ことと対比すると、同規則は行政措置要求については代理を認めない趣旨であると解される。

(二) ところで、右人事院規則は、法律の委任によって定められたものであるから、上位の規範である憲法及び法律に違反しない限り有効であるところ、行政措置要求について代理が許される旨定めた憲法及び法律の規定はない。

この点に関し、原告らは、弁護士法三条は行政措置要求手続についても弁護士が代理人となることを認めたものというべきであり、規則一三―二が措置要求については弁護士が代理人となることも認めない趣旨であるならば、同規則自体が同法に違反して無効であると主張する。しかし、弁護士法三条は、弁護士が行うことのできる職務の範囲を一般的に定めたものにすぎず、同条が定める職務に属する事柄について弁護士による代理行為を必ず許さなければならないことまでを規定したものとは解しえない。のみならず、行政措置要求の制度は、不利益処分審査制度と異なり、厳格な準司法的手続の制度ではなく、「一般国民及び関係者に公平なように、且つ、職員の能率を発揮し、及び増進する見地」から、「必要と認める調査、口頭審理その他の事実審査を」被告が適宜選んで行うことになっているほか(国家公務員法八七条、規則一三―二第七条、八条)、簡易な行政措置要求書を提出すること以外には、申請者が右審査手続において何らかの行為をすることは要求されていないし、予定されてもいないから、弁護士による代理を認めないことによって、職員の権利が不当に制限されるとはいい難い。したがって、原告の右主張は採用できない。

(三) 以上の次第であって、原告らが弁護士を代理人として手続を進めようとしたのに対し、被告がこれを許さなかったことは取消事由とはならないというべきである。

2  原告らが公開の場での調査を要求したのに対し、被告がこれを拒否したことが取消事由となるか否かについて検討する。

(一) 規則一三―二は、被告が必要と認めたときに、公開又は非公開の口頭審理を行うことができるとしている(七条二項)ところ、憲法及び法律には規則の右規定と抵触する定めはなく、かえって、国家公務員法が、行政措置要求についての事実審査を被告に適宜選択させることとしていることは前記のとおりであるから、右規定は有効なものというべきである。

(二) 原告らは、本件では調査手続を公開することにより適切な主張・立証を行う必要があった旨主張するが、右必要性についての立証はない。

(三) したがって、被告が公開の場での調査を行うことを拒否したことが、事実審査手続の選択について被告に与えられた裁量権を濫用した違法なものであるということはできない。

三  以上のとおりであって、原告らの主張にかかる取消事由はいずれもこれを採用することができず、その他本件判定を違法とすべき事由は存しないから、本件判定の取消請求はこれを認めることができない。

(裁判官 草野芳郎 竹内民生 始関正光)

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